書籍『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』を読みました。
iPS細胞についての知識はもはやおまけです。
以下で、簡単な内容紹介とレビューを述べていきます。
『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』について
著者 | 山中伸弥(聞き手・緑慎也)。2人とも「しんや」。 |
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発行 | 講談社プラスα文庫、2016年5月。新書版は2012年10月刊行。 |
読了時間 | 1.5時間。研究の細かい話は覚えられないので飛ばした。 |
きっかけ | 「NHKアカデミア」の山中伸弥氏の回を視聴して、山中伸弥さんのいうVisionについて触れている書籍がないか探した。 |
iPS細胞の作製に至るまでどのような研究人生を歩んできたのか、山中伸弥本人の語りで描く。
作製に世界ではじめて成功してからの、熾烈な研究競争や未来の展望も軽く紹介。
後半はインタビュー形式で、人生やiPS細胞の展望などについて語る。
感謝マインド
足を向けて寝られない人がたくさんいるんです。いろんな人に支えられてできたiPS細胞です。(本書より)
本書内で、山中伸弥さんが多くの人に感謝しているのが印象的でした。
p. 105〜111だけでも、林崎良英先生、岸本忠三先生、中川誠人君の3人に感謝しています。
多くの人の協力があったことがよくわかります。
iPS細胞ができるまででこれだけ多くの人に感謝しているので、iPS研究所ができてからは感謝リストがエライことになっているでしょう。
もう彼はどこにも足を向けて寝られません。
今さらながら、iPS細胞の基本を知る
iPS Cells=Induced Pluripotent Stem Cells。
先頭のアイが小文字なのは、Appleリスペクトだとか。
ざっくりした初期のiPS細胞作製手順は以下の感じです。
- 人体から細胞を採取
- 培養
- 4つの遺伝子を加える
- 培養
- iPS細胞のできあがり
「4つの遺伝子を加える」だけ。
Sox2(ソックスツー)、Oct3/4(オクトスリーフォー)、Klf4(ケーエルエフフォー)、c-Myc(シーミック)。
2023年2月現在でいうと、ChatGPTが出てきたくらいの衝撃でしょうか。
応用研究や臨床試験がどんどん進んでいるのは、日々のニュースでなんとなく把握しています。
個人的には最近虫歯を治療したので、歯の再生医療にiPS細胞が使えるようにならないかなと考えています。
本書を見つけたきっかけはVW
本書を見つけたきっかけは、「NHKアカデミア」と『夢をかなえるゾウ 1』(著・水野敬也、文響社、2021年電子版)です。
「NHKアカデミア」に山中伸弥さんが出演して、VWについて語っていました。
動画はNHKラーニングで視聴できます(2023年2月18日現在)。
VWとは、Vision(長期目標)とWork hardです。
勤めていたグラッドストーン研究所の所長(当時)ロバート・メーリーから教わった考えだそう。
ざっくり言うと、「なんのために働いているのかはっきり自覚して、一生懸命働け」だと思います。
山中伸弥さん曰く、「日本人は”Work hard”が得意」らしい……。
自分が日本人か怪しくなってきました。
一方で「日本人は”Vision”を持つのは苦手」。
たぶん啓発的な意味も込めて、本書ではiPS細胞作製のために立てた長期・短期目標(ビジョン)を紹介しています。
当然かもしれませんが、賢くて効率的なビジョンでした。
熱意にひるむ
iPS細胞という技術と出会ってしまったので、当然のこと(重圧)だと思います。(中略)でも、本当に苦しんでいる方たちやそのご家族の方たちが、(中略)ぼくらの体を気遣ってくれるのです。その気持ちがありがたいし、逆にこの仕事をさせてもらえることに幸せを感じています。(中略)医師になったからには、最後は人の役に立って死にたいと思っています。(本書より)
もちろんVisionが大切なのは理解していますし、ぼくも長期・短期目標は立てていますが、もっと大切なのは熱意だと考えています。
山中伸弥さんが研究にかける熱意の大きさも、本書からはっきり感じました。
プロフィールでボソッと書いていますが、ぼくは博士後期課程(博士号取得を目指す進路)を中退しています。
才能が足りないのもありましたが、才能不足を補えるほど熱意があるわけでもなかったからだと思います。
山中伸弥さんもPAD(アメリカ後うつ病)に苦しんだ時期があったようですが、復活しています。
何なら、奈良にいた1992年12月〜2003年5月の10年超はなんと論文なし!
研究成果が出ない苦しみは多少理解しています。
学部4年次を含めてもぼくの研究歴は5年弱なので、その倍以上の時間を成果なしで過ごしたとは……。
こういう人が世界を変えるんですね。
成果が出ない時期に何度も読んだ本が『仕事は楽しいかね?』(デイル・ドーテン著、野津智子訳、きこ書房、2001年刊)だそうです。
自分も読んだ本が出てくると、勝手に親近感が湧きます。
彼我の熱意差は絶望的ですが。
実際に世界を変えたという意味でも、重圧・使命感についての話も含めて、山中伸弥さんの考えに圧倒されてしまいました。
まとめ
かつて研究者を目指したこともあって、正直、自分との意識差に圧倒されました。あー研究者やってなくて良かった。
iPS細胞・医療技術に関しては、ぼくは完全に消費者側なので、お行儀よく一般医療化されるのを待ちます。
ぼくはぼくのフィールドを見極め、いつか本書のような自分語りができる人生を目指します。