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2D的な3DCGアニメ作画と映像表現が美しいSFドラマ:アニメ映画『HELLO WORLD』レビュー

アニメ映画『HELLO WORLD』のレビューです。
本作は2D的な3DCGアニメ作画と映像表現が美しいSFドラマです。

次のような人に本作はおすすめ。

  • SFが好きな人
  • これまでSF作品をノリで理解してきた人
  • 3DCGアニメが苦手な人
  • シミュレーション仮説が好きな人

以下では、ごく簡単な内容紹介と自分なりの気付きやポイント、関連作品を述べていきます。

『HELLO WORLD』について

  • 制作はグラフィニカ、監督は『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の伊藤智彦、脚本は小説家の野﨑まど
  • 2019年9月劇場公開
  • 上映時間は98分

思ったことが言えず、周りの意見にしたがう引っ込み思案な自分が変えられないと悩む男子高校生の堅書直美(かたがきなおみ、CV:北村匠海)。
夏のある日、足が3本のカラスに持っていた本を奪われた直美は、追いかけた先の伏見稲荷大社で、突然そこに現れた白いフードの男に逆に追いかけられる。
2037年から来た10年後の自分であり、今の直美に彼女を作らせてやると男は言って、同じ図書委員の一行瑠璃(いちぎょうるり、CV:松坂桃李)に接近するよう持ちかける。
しかし、男の目的は別にあった。
男の真の目的と世界の真実が明らかになる中で、直美は瑠璃を助けるために奮闘する。

SFってすごくすてきな新しい世界を見せてくれるんです

「SFってすごくすてきな新しい世界を見せてくれるんです でもそれが夢物語じゃなくて普通の世界の延長にあって 自分自身もまるで物語の一部みたいに思えて 現実の僕はただのエキストラですけど だからその…全然うまく説明できないんですけど SFが…好きなんです」(直美)

SF(アニメ)と青春ドラマ的展開が好きな人は、本作を楽しめると思います。
ただし、まったく予備知識がなければ、後半につれてストーリーについていけなくなるかもしれません。

良い悪いではなくSFだなあと個人的に思うレベルを5段階で評価すると、本作はSFレベル3くらいです。
レベル5は……たとえばアニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』ですかね。
原作も含めて、作り込まれた世界観とテーマが世界的に評価されています。
ちなみに伊藤智彦監督の『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』は甘くみてレベル2。

そのため、いわゆる理系であれば、ほぼ問題なく鑑賞できるでしょう。
逆にガッチガチの文系でパソコンアレルギーの人は……そもそもSFを観ないでしょうね。
そこまでではない人も「バタフライエフェクト」「アドレス」「システムファイル」「ビット」といった情報・科学用語の雰囲気はわかっておいたほうがよさそうです。

まあぼく自身、こんな感じかなと思っていたことが、本作の解説記事の1つを読んだ際に自分の勘違いだと気づきました(データのコピーが取れない理由はフォーマット的なことだと思っていたら、「量子複製不可能定理」で原理的に無理だったらしい)。
多少勘違いしていても本筋は追えたので、SF作品を雰囲気で楽しんできたぼくみたいな人は、本作もノリと勢いで突破できるはずです。
SFはすごくすごい世界。

3DCGアニメのすごくすてきな新しい世界を見せてくれるんです

2D-3DCG-アニメ-イメージ

2D作画に寄せた3DCGアニメなので、3DCGアニメが苦手な人も本作は楽しめるはず。
アニメ『けいおん!』というか、京都アニメーションの雰囲気が出ています。
不安な人はまず予告編を観て、いけそうなら本編を鑑賞しましょう。

ぼくも3DCGアニメは苦手な口です。
ディズニー映画は『塔の上のラプンツェル』より『アラジン』派。
本作も劇場公開した当初から存在を把握していましたが、一瞬見た映像が3DCGだったのでこれまでスルーしてきました……。

まるでぼくのために作画されたかのような、見事な2Dと3Dのバランス感覚です。
本作はぼくにとって3DCGアニメの開闢といっていいでしょう。
本作の視聴を機に、もう少し3DCGアニメの世界に飛び込んでみようと思います。

シミュレーション仮説

シミュレーション仮説-イメージ

本作のテーマの1つに関わるシミュレーション仮説から、ちょっと個人的かつ専門的な話をします
専門家ではないので話半分に読んでください。

本作でも言及されているように、「現実世界のすべての現象を完璧にシミュレーションできるコンピュータが仮に存在すれば、今自分たちが生きるこの世界もコンピュータで計算されたものかもしれない」という考え方があります。
詳細はWikipediaにぶん投げます。

シミュレーション仮説を基にした作品は枚挙にいとまがありません。
ちょうど同監督が劇場版で関わったSAOの『ソードアート・オンライン アリシゼーション』や、漫画『7thGARDEN』などなど。
『7thGARDEN』の作者である泉光(いずみみつ)氏がgood!アフタヌーンで連載中の漫画『圕の大魔術師』は、100%アニメ化するので要注目ですよ。

さて、この世のすべてを仮にシミュレートしようと思ったら、量子世界の再現は避けて通れません。
その際、時間・空間解像度がどれくらい必要かというと、書籍『時間は存在しない』で語られている理論が参考になります。
量子時空の世界の最小スケールであるプランク時間は10^-44秒、プランク長は10^-34ミリメートルです。
ひょー、小さい。

そうして再現される量子時空の世界の直感的な表現は、書籍『時間は存在しない』の下図のようになります。

スピンフォームの直感的な表現-時間は存在しない

出典:書籍『時間は存在しない』

なんだか勢いのある幾何学的な世界観……!?
カラーでないのが残念ですが、どことなく本作の映像表現と既視感があることに勝手に感動しました。

監督の勉強の賜物かもしれませんし、クリエイターの直感がたまたま似た表現を生んだだけかもしれません。
そもそもがぼくの希望的観測に過ぎないのかもしれませんが、この小さな興奮を共有できれば幸いです。

『HELLO WORLD』の関連作品

本作中には多くの実在書籍が登場しましたが、あえてここにはあげません。
ほかに紹介したい関連作品が十分あったので。

本作を観てからでも観る前でも、ノベライズ版『HELLO WORLD』を読めば世界観をより理解できるでしょう。
また、脚本の野﨑まど氏本人による書き下ろし後日談が無料noteにあがっているので、本作視聴後にどうぞ。

ゲームを通したシミュレーション仮説的な話として、岡嶋二人氏のSF小説『クラインの壺』もおすすめ。
現実世界と仮想世界の境界が曖昧になっていくミステリーSFです。
本作を鑑賞中に『クラインの壺』を思い出してしまって、どんな不気味エンドが待ち構えているのかと警戒してしまいました。
本作の不気味成分が足りないと思った人はどうぞ

書籍『時間は存在しない』はすでに言及したので、興味が湧いた人は一周回って時間と空間の存在を信じられる『時間は存在しない』を読んでみましょう
レビューもしているのでよろしければ。

まとめ

今回は、アニメ映画『HELLO WORLD』をレビューしました。
SFと3DCGアニメの芸術的な融合を味わえました。
ぼくも図書委員になっておくべきでしたね。

音楽や映像表現などほかにも書きたいことがありましたが、尺の都合で残念ながらカット。
本作を観て、この現実がシミュレーションされていたとわかる日に備えましょう。